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就業規則の基本条文を、労働基準法・民法等の関連法律条文とともに各条毎に詳細解説!これを読めば就業規則がまるっと分かります。
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[人事第12条(出向)

条文例



第12条 会社は、業務上必要がある場合は、社員に対し、当社に在籍のまま当社の完全子会社への出向を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合は、社員に対し、3年以内の期限を定めて、当社に在籍のまま他の会社(完全子会社を除く)並びに団体への出向を命ずることがある。
3 社員は、前2項の定めにより出向を命じられた場合、これを拒むことはできない。但し、社員のうち、採用時に転勤を行わない又は転勤地を一定の地域に限る旨の定めを行ったものについては、出向先企業における勤務地の範囲について
4 前2項の定めにより出向した社員(以下、出向社員という)に対して支払われる賃金の水準は、出向の水準を下回らないものとし、人事考課にあっては、当社の業務に従事する社員に準じて評価を行うものとする。
5 出向社員に対する就業規則の適用及び労働基準法その他の法令における使用者の責任については、出向元と出向先の間で締結される出向契約によって定め、対象労働者に明示するものとする。
6 第1項の定めにより社員が出向している会社が、当社の完全子会社でなくなった場合には、その時点において第2項の適用を受けるものとする。


解説


 第12条では、出向について定めています。
 
 ”出向”とは、出向元とは何らかの労働関係を保ちながら、出向先との間において新たな労働契約関係に基づき相当期間継続的に勤務する形態を指します。このうち、出向元との労働契約関係を維持したまま行う出向を「在籍型出向(在籍出向)」と、出向元との労働契約関係を終了させて出向を「移籍型出向(転籍出向)」といいます。(昭61.6.6基発333号)本条ではこのうちの「在籍出向」についての取扱いを定めています。(以下、本条の解説では、在籍出向を単に「出向」といいます。)

 第11条の配置転換・転勤など人事異動と異なり、従業員への出向命令は「出向先との間において新たな労働契約関係を生じさせる」という法律上の効力を持ちます。このため、民法625条第1項との関係から、出向命令を行う場合には、労働者の承諾(同意)が必要とされ、通常の人事異動の手続きより厳重な手続きが必要となります。

 在籍出向に対する労働者の同意については、原則として就業規則や労働協約上へ明記することによる「包括的同意」で足りるとされています。これは、「出向中も出向元との労働契約関係が継続している」「労働条件に大きな変動を及ぼさない」「出向終了時には出向元の業務に復する」ということが前提となっているためです。すなわち、これらの条件のいずれかが満たされない場合(転籍、労働条件の終了、いわゆる「片道切符」の出向)の場合には、労働者個別の同意が必要とされています。

 ここで注意しなければならないのが、「包括的同意」が認められるかどうかの判断です。最近の判例では、単に就業規則上で「出向を命ずることがある」と定めているのみでは、出向に関して「包括的同意」が行われているとはいえないという判例が多く、出向義務、出向先の範囲、出向中の労働条件、出向期間等を具体的に定めることが必要とされています。このため、従業員に出向を命ずる可能性がある場合には、就業規則上や社内規定でこれらのことを明らかにすることが必要です。

 この例では、まず、第1項と第2項にて「出向先の範囲」と「出向期間」を明らかにしています。第1項では、出向先として完全子会社(出資比率が100%である子会社)を挙げています。完全子会社の場合には、親会社の完全な経営支配が及んでおり、実態として「社内の一部門」と同等の取扱いをされるケースが大変多く見られます。この例では、完全子会社を「社内の一部門」と同等に捉えていることを前提として、第11条に定める社内の人事異動と同様の定めを行っています。
 
 一方、第2項では、完全子会社以外の会社・団体への出向について定めています。完全子会社以外の会社・団体については(1)子会社、(2)関連会社、(3)子会社・関連会社でないが、業務上のつながりが深い会社(下請、業務提携先等)、(4)加盟する業界団体 等に対して出向が行われる場合が多く見られますが、これらの場合には、勤務形態や労働条件などが幾分異なることが予想され、「社内の一部門への異動」と同等に捉えることは難しいと考えられます。また、出向の目的も出向先の業務への支援を前提としていることが多いものと予想されます。この例では、出向の目的を「出向先の業務への支援」を前提とし、出向の期限を「3年」としています。なお、ここでは出向終了後には出向元である当社へ復帰することを前提としています。

 そして、第3項にて「社員(≠従業員)」に対して出向義務を課すこと、第4項にて出向中の労働条件の定めについて明らかにしています。また、出向期間中は密接に関連した複数の労働契約関係が同時に成立することになりますので、その間の就業規則の適用や法律上の義務責任の所在を整理することが求められます。この例では、第5項にてその手続きを定めています。

 なお、出向と同様の労働関係にあるものとして「派遣」があります。派遣においても、派遣労働者の労働契約関係は派遣元と、指揮命令関係は派遣先と結ばれていますが、派遣の場合には、「派遣元が労働者の派遣行為そのものを業として行う(=労働者派遣を収益の目的として、派遣元と派遣先の間で労働者派遣契約を締結する)」点において、出向と異なります。出向の場合にも、出向者の人件費相当額を出向先から出向元へ支払う場合が多くありますが、これはあくまでも「出向者への給与を負担する」ということであり、出向者の人件費相当額以上の支払いを行うことは予定されていません。人件費以上の支払いを行ってしまうと、常用型労働者派遣を行っていると解釈されたり、税法上の不利益を被る可能性があるため注意が必要です。

 出向の取扱いについては、労働トラブルになるケースが多いポイントです。その多くが、「出向の可能性があることを従業員が予想していない/予想していた出向内容と違う」ことに起因しています。無用な労働トラブルを避けるためには、出向の有無や条件はもちろん、出向の目的・業務上の必要性のなどを従業員に理解させることが必要です。「論理的にきちんと説明できるだけの意思と判断基準を持つこと」がトラブル回避の第一歩となります。

検討のポイント



  1. まず、現状及び近い将来において、出向を命ずる可能性があるかどうかを検討いたします。

  2. 出向を命ずる可能性がある場合には、出向の対象となりうる従業員の範囲を検討します。(通常は”社員”に限られますので、その上で、全ての社員が対象となるか、それとも一部の社員のみが対象となるかを検討します)この際、社内での人事異動(配置転換、転勤)の対象者の範囲との整合性が取られていることを確認する必要があります。

  3. 出向を命ずる可能性がある場合には、具体的に想定される出向先を念頭にし、出向中の労働条件、出向期間、出向先と出向元の間における責任分担を検討します。

  4. 以上を踏まえ、出向に関する定めを就業規則として網羅的に成文化します。

  5. なお、これまでは出向の実施を想定していなかったが、今後においては出向をさせる可能性がある場合については、就業規則の変更時点で従業員個別の確認を得た方が望ましいでしょう。この場合、出向対象者を一部の従業員に限定する場合は、人事制度の変更も視野に入れることが望ましいと考えられます。



関連法令(民法)



−第625条(使用者の権利の譲渡の制限等)
使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。
2 労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。
3 労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は、契約の解除をすることができる。


関連法令(労働基準法)



−第10条(定義)
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。


関連通達(労働基準法解釈例規)



−昭和61.6.6 基発333号
出向とは、出向元と何らかの労働関係を保ちながら、出向先との間において新たな労働契約関係に基づき相当期間継続的に勤務する形態であり、出向元との関係から在籍型出向と移籍型出向とに分類される。
(1) 在籍型出向
在籍型出向は、出向先と出向労働者との間に出向元から委ねられた指揮命令関係ではなく、労働契約関係及びこれに基づく指揮命令関係がある形態であり、労働者派遣には該当しない。
出向先と出向労働者との間に労働契約関係が存するか否かは、出向・派遣という名称によることなく出向先と労働者との間の労働関係の実態により、出向先が出向労働者に対する指揮命令権を有していることに加え、出向先の資金の全部又は一部の支払いをすること、出向先の就業規則の適用があること、出向先が独自に出向労働者の労働条件を変更することがあること、出向先において社会・労働保険へ加入していること等総合的に勘案して判断すること。
なお、在籍型出向の出向労働者については、出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負うものである。この点については、昭和59年10月18日付け労働基準法研究会報告「派遣、出向等複雑な労働関係に対する労働基準法等の適用について」中「3いわゆる出向型に対する労働基準法等の適用関係」を参照のこと。
(2) 移籍型出向
移籍型出向は、出向先との間にのみ労働契約関係がある形態であり、出向元と出向労働者との労働契約関係は終了しており、労働者派遣には該当しない。
なお、移籍型出向の出向労働者については、出向先とのみ労働契約関係があるので、出向先についてのみ労働基準法等の適用がある。
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